音のイリとヌキ
装飾音とビブラートは、カレーで言えばカレー粉とブイヨンベースです。これが入っていれば確かにカレーだし食べられないことはありません。でも最後に客を「旨い」とうならせるのは結局、素材のおいしさだとか心のこもったていねいな調理だとか、あたりまえのことだったりします。インディアンフルートで言えば「一つ一つの音をきれいに鳴らしましょう」ということです。
「一つ一つの音をきれいに鳴らす」とは音のイリとヌキをきちんとしましょう、ということです。
- イリ=音の鳴り始め
- ヌキ=音の鳴り終わり
これが意外と難しい上にぱっとした効果もありませんから、なんともやりがいがありません。最初は気にしなくていいです、そんなことがあるのだと頭の片隅に入れておいてください。将来、「装飾音やビブラートを入れてるのに、なんだかぜんぜん冴えない」と思うことがあれば、練習してください。一つ一つの音をきれいに鳴らすようにすると、演奏全体が見違えるようによくなります。
イリ
音の鳴り始めを分類するなら、次の3通りになります。
- ふーっと吹く
- 出だしのぼんやりした柔らかい音になります。速いメロディーはムリです。曲の始まりや、曲の途中で一息ついて次のフレーズをおもむろに吹き始めるときに、柔らかい感じを演出するのに使います。
- ぷーっと吹く
- 唇を使って音を区切ります。「ふー」よりももう少しはっきりした音になります。速いフレーズはムリですが、インディアンフルートらしいおっとりした感じになるので積極的に使います。
- るーっと吹く
- 舌を使って音を区切ります。「るるるるっ」と素早いフレーズも区切ることができます。万能と言えば万能ですが音がカチカチになってしまいます。出だしを「ふー」から初めて、中はできるだけ「ぷー」を使い、速いところを「るるる」でこなす、というバランスがよいでしょう。
「ふー」「ぷー」「るー」の配分バランスは人それぞれです。大好きなプレイヤーを見つけてその人のまねをするのがよいです。
タンギングについて
「るるるっ」と舌で音を区切ることを西洋ではタンギングといいます。西洋のフルートやリコーダーにとってタンギングは重要必須科目ですが、インディアンフルートはできたほうがいい、程度です。逆にタンギングをきっちりしすぎると、なんだか西洋のフルートやリコーダーの音のように聞こえてくるから不思議です。もちろんそいうい硬い音を使うインディアンフルート奏者もいて、それはそれでかっこいい。結局、自分はどんな音が好きなのかというのが第一で、それに合ったアドバイスを聞けばよいです。
ヌキ
曲の最後をすーっと長く伸ばして終わるのは至難です。これがきれいにできればプロになれます。どう教えたらよいものか、コツも何も、自分の音を自分の耳で聞きながら細心の注意で息をしぼっていきます。人前で吹いているときにこれができるようになるには相当の練習が必要でしょう、私はできません。
もっと初心者向きのアドバイスとして、「初心者は音を止めるタイミングが半拍早い」というのがあります。なぜだかそういう傾向があります。「きちんと拍子をとって音を伸ばしているのに、なんだか音がぶつ切りに聞こえる」という場合は、「ここで音を止めるっ!」と思ったタイミングから更に半拍だけ音を伸ばして止めてみてください。感覚としては自動車のブレーキを踏んだけれどいきなり止まれなくて何メートルか進んで止まった、という感じでしょうか。
それとインディアンフルートならではの奥の手があります。音の最後に入れる装飾音、「ピー…ョッ」のことです。こっちの方がまだ簡単にマスターできます。曲の終わりで「だめだ、音がヘタるっ」と思ったら「…ョッ」とごまかしましょう。それでも文句を言う人はいないでしょうから。